ARLISS2009

本年度はARLISS初参加と言うこともあり、Cansatの衛星バスの基本設計を中心にプロジェクトを進めた。衛星バスを構成する電源系、通信系、構体系の開発を重点的に行うことで、次年度以降のさらに高度なミッションを実現することを目的とした。同時に、本研究室で開発を進めているFPGAを用いた高性能小型カメラユニットの搭載実証試験を行った。

また、参加者の多くが海外渡航未経験者であり、海外滞在で異文化を体験することにより多くの経験を積むことも1つの目的とした。

 

サクセスクライテリア

サクセスクライテリアを以下のように定めた。なお、アドバンスドサクセスは開発の都合上、開発することができなかった。

ミニマムサクセス

衛星で受信したGPSデータを地上にダウンリンクし、地上局で確実に受信して衛星座標を取得する。

ミドル

サクセス

衛星バスのコマンドによってカメラユニットが正常に動作し、画像取得するとともに、撮影画像を搭載SDカードへ連続的に保存し、過酷な環境下でのカメラの動作検証を行う。

フル

サクセス

2。4GHz帯という高い周波数帯を使用することで従来と比較し、高速なダウンリンクを実現する。その高速通信を利用することで撮影画像のサムネイルをリアルタイム伝送し、衛星の飛行状況の確認を行う。

アドバンスドサクセス

方位センサから算出した衛星姿勢を用いて、ESPARアンテナと呼ばれる可変指向性アンテナの指向制御を行う。これにより低出力で遠距離の通信を実現することで、小型衛星への可変指向性アンテナ搭載への足がかりを気づく。

 

システム全体の構成

システム全体の構成は大きく分けて、電源系、構体系、通信系、C&DH系、ミッション系、地上局に分かれている。図3.9.3-1にその構成図を示す。また,完成したフライトモデル(FM)を図3.9.3-1

電源系ではCansatの各系に必要な電力を計算し、実用に耐えうる電力を連続して安定的に供給する。構体系ではサイズ、重量、部品の配置や筐体の構造、パラシュートの展開などを担当する。特に安全に関わる部分が多いため、初参加となる今回は可能な限り簡易な構造で強度や剛性を確保する。通信系と地上局は、アマチュア無線機を使用し、430MHz帯の無線通信を行う。また、今日ハードウェアモデムICの入手性が悪いことから、ソフトウェア無線通信を開発した。C&DH系では姿勢と位置を特定するために各種センサよりデータを取得する。また、今回は各系との単純なデータハンドリングのみで、複雑な操作は避ける。図3.9.3-1にはSDカードへの保存と記してあるが、開発の都合上省いた。ミッション系ではFPGAを用いたカメラ撮影、撮影画像のSDカードへの保存、2.4GHz帯を用いたZigbeeによるサムネイル画像の高速無線伝送を実現した。

各系詳細

電源系

電源系は無線機用の電源とその他の電源で2個用意した。無線機には無線機に標準で搭載されているリチウムイオン電池を使用し、その他の電源には稼働時間と入手性から考えてeneloopの単三電池を4本直列にしてしようする。また、各系にはDC-DCコンバータにより安定した電力を供給する。

事前に行った稼働テストの結果より約90分の稼働を実現でき、十分な駆動時間が確保できることを確認した。その結果を図3.9.4.1-1に示す。

構体系

構体系は安全に関わる部分が多いために複雑な構造は避け、比較的単純な構造とすることで確実なフライトを実現できるようにした(図3.9.4.2-1)。サイズは直径130mm、高さ175mmであり、最下面に着地時の衝撃を緩和するために40mm厚のスポンジを付けた。重量は1035gであった。

パラシュートが確実に展開することを示すために、事前に東京工業大学の協力のもと気球を用いてフィールド試験を行い、パラシュートの展開、着陸を確認した。

通信系 & 地上局

通信系では430MHz帯を用いた無線通信を行う。通信データにはC&DH系で取得したGPS、加速度、地磁気のデータを送信する。当初UIフレームにはAx25を実装する予定であったが、開発時間の都合上未実装となった。

本Cansatの特徴の一つとして、ソフトウェアによるFSKを実装した。理由は衛星でのデータ変調にはbell202が未だに多く使われているが、専用ICの入手性を考えると新たな手段の確立が必要だと考えたためである。しかし、急に全てをソフトウェアに置き換えるのは信頼性の面や開発状況から考え、地上局には専用ICであるFX614を使用した。

 

C&DH系

C&DH系ではCansatの位置と姿勢を知るためのセンサ類からのデータの取得と各系とのインターフェイスをにない、データハンドリングを行う。センサにはGPS、加速度、地磁気センサを搭載した。

通信系とのデータハンドリングはCANを用いておこなった。取得したセンサデータを送信する他、無線通信のタイミングのなどの簡単な指令などもC&DH系が行っている。また、ミッション系とのデータハンドリングはミッション系の開発状況から考え、UARTを用いた。ミッション系での画像に添付するためにGPSデータを送っている。

図3.9.4.4-1は通信系とC&DH系の基板画像である。右側にも左と同様の通信系のマイコンが搭載される。

ミッション系

ミッション系ではカメラによる連続撮影と、撮影画像のSDカードへの保存、Zigbee無線機を使用したサムネイル画像のリアルタイム伝送を行う。SDカードへの保存時、また伝送時にはC&DH系より受け取ったGPSデータを付加する。

独自開発したFPGAボードによりカメラシステムに必要な周辺回路の大部分をFPGAワンチップで行っていることが特徴である。ZigbeeはZigbeeProを使用することで4km近くの長距離伝送を可能とした。図3.9.4.5-1はミッション系の基板である。

フライト結果

1回目

1回目のフライトでは無線機に電源が入らなかったため、各種センサデータを取得することができなかった。しかし、その他の系は動作したため、ミッション系において、カメラ撮影とSDカードへの画像の保存、無線機を使用したサムネイル画像のリアルタイム伝送は成功した。また、画像に付加してあるGPSデータよりフライト軌跡を読み取ることもできた。以下はSDカードへ保存された撮影画像とそのときのダウンリンクされたサムネイル画像の例、そしてフライト軌跡である。

電源が入らなかった原因は、ロケットの振動により電源系で無線機の電源を入れるためのマイコンがソケットから抜けてしまったためであった。

2回目

2回目は1回目の失敗から各ソケットを接着剤とテープを用いて丁寧に固定した。その結果、ロケットから放出後に全系に電源が投入され動作した。しかし、GPSがコールドスタートとなってしまったためにGPSデータが取得できなかった。また、風に流されて距離が離れすぎてしまったため、Zigbeeによる正常なサムネイル画像を得ることができなかった。以下はSDカードへ保存された画像とダウンリンクされたサムネイル画像の例である。

サクセスクライテリアの評価

1回目のフライトではミニマムサクセスは達成することができなかったものの、画像撮影と保存、リアルタイム伝送が実現できたため、ミドル、フルサクセスに関しては達成することができた。2回目のフライトでは通信系の無線機は動作をしたがGPSデータを得ることができなかったため、ミニマムサクセスの一部は達成した。画像の撮影と保存はできたがリアルタイム伝送が実現しなかったため、ミドルサクセスは達成したものの、フルサクセスは達成することができなかった。なお、先にも述べたようにアドバンスドサクセスに関しては開発することができなかったため達成することができなかった。

 

まとめ

ARLISSでは目標設定とそのためのシステム開発、チームでのプロジェクト遂行など、本格的なもの作りの難しさを実感することができた。また、実際のフライトでは想定していたような結果を得ることができず、本番前の準備や想定外の事態への対処の重要性も知ることができた。しかし、これらのことより広大な砂漠のど真ん中で、多くの仲間たちと共に口を開けながらロケットを見上げ、落下してくるCansatを追いかけたことが最も重要だったと感じている。このように、多くのことをこのARLISSでは学ぶことができた。